@オソラの星 〜 カナメちゃんのブルース (3拍子)

Am Dm Am Dm G7 Am
あたしは砕けた女 お山で掘られて 流され 黒い 砂鉄に なりま して お馬に 揺られて 旅に出
ハゲ山で出合った男 炭焼小屋で 燻され たたらの 炎に なると いう 分かれの 道を 間違え

Am Dm Am Dm G7 Am
たたらの鉄が生ま あたしは用無し ゴミにな オソラの 上から 雨が降 転げて 河原で 丸くな


奥安芸の鉄物語〜オソラの星  絵・いくまさ鉄平 文・林 俊一 (工事中)    
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NA)  【奥安芸の鉄物語〜オソラの星】

     始まり〜始まり〜

     これは、昔、昭和33年まで、安芸太田町にあった”帝国製鉄加計工場”です。

     その跡地で開催中の、「しわいマラソン」の会場から、
     この物語は始まります。

 2

NA)  温井ダムを夜明まえにスタートし、
     安芸太田町の全域をまわる100kmのコース。

     ゴール直前に、温井ダムバックヤードの長い階段を登るという、
     とんでもなく過酷なマラソン大会です。

     あれえ?

     会社の新人研修で、いやいや参加している”正夫くん”は、
     歩いているようにしか見えませんねえ。

正夫)  あっはあ〜〜 も〜ダメ・・ 先輩、先に行ってくださいよ〜

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正夫)  ふう〜〜〜〜〜  こりゃ、ブラック企業だわ。 (←不満)

      かっこいいスーツを着たのは入社式の時だけ。 毎日、毎日、汗まみれ。
      もう、こんな会社は辞めたいよ〜

      あれっ?

      ここは、小学生の頃、迷子になった場所と、似てるなあ〜

      もしかして・・・

 4

カナメ)  やっほ〜 正夫くん。 こっちよ〜 (←元気に)

正夫)   やっぱり、カナメちゃんだ。

      たたら製鉄のカナクソが、河原で丸くなったカナメちゃんの声だ。

      山の上のほうから聞こえてくるのは、不思議だなあ??

NA)   正夫くんは、スキー場のゲレンデの芝生で一休み。 マラソンを放り出してしまいました。

 5

カナメ)  正夫くん 元気?

正夫)   カナメちゃん。 久しぶりだね。  僕は今年、「鉄の会社」に就職したよ。

カナメ)  そうなの。

      正夫くん。 覚えている??
      馬の背中に載せて運んでいた砂鉄や、炭焼き窯のこと。

正夫)   もちろん。 だけど、今は時代が違うよ。

 6

正夫)   日本の製鉄は、外国からたくさんの”鉄鉱石や石炭”を輸入していて、
       世界で2番目の生産量だよ。 (←自慢げ)

       大量生産、大量消費、これも時代の流れということだね。

カナメ)   正夫くん。 あまり知られていないけど、太田川上流でもイロイロあってね。

 7

カナメ) 山の中に捨てられていた「カナクソ」は、掘り出されて、
       今では、「オソラ」の上の、そのまた上に隠れているの。

正夫)   はあ? どうゆうこと??

NA)   山の天気は変わり易く、だんだんと暗くなってきました。
       正夫が、あたりをキョロキョロした、その時です。

カナメ)  正夫くん。 カナメといっしょにタイムスリップしょう。

音)    ババン バババババ〜ン (←衝撃的に)

カナメちゃんを
丸く可愛く。
 8

正夫)   ぎゃ〜 カミナリかあ〜 (←びっくり)

カナメ)  びっくりさせてごめんね。
       原生林を、ダイナマイトで切り倒しているの。

正夫)   カナメちゃん。 木は、ノコギリや斧で切り倒すんじゃないの?

カナメ)  今はね。 第二次世界大戦の真っ最中・・

       人間は、神として崇めていた”恐羅漢という山”を、壊し始めたの。

       燃料になる木炭を作るためにね。

音)    グォ〜〜 ブーブー

カナメ) 正夫くん。 危ないわよ〜  (←紙の引き方?)

本絵を小さく切り抜いたため、
パワポで投影したら、
画素が荒いです。

修正できますか?
 9

カナメ) このトラックは、ガソリンじゃなくてね。 木炭を燃やして動く”木炭車”よ。
       でも、坂道になったら、人が後ろから押さないと止まっちゃうの。

正夫)  へえ〜そうなんだ。 あれえ? カナメちゃん。 

      荷台に載っている”黒い石コロ”は、カナクソじゃないの?

カナメ) さすが正夫くんだわ。 よく解ったわね。

      ねえ。 森の奥から、何か聞こえてこない??

  10

住民)   「鉄が無あで〜 ガソリンが無あで〜 腹減ったのう 皆で拾ってつかあさい。」

       「捨てられたカナクソまで拾ろーて、ホンマにアメリカに勝てるんかいのう?」

       「子供も手伝え エンヤコラ〜 学童疎開じゃ エンヤコラ〜」

       「ありゃりゃ? 丸いカナクソじゃ。 こいつも連れてっちゃろ。」

NA)    その行く先は、帝国製鉄加計工場です。

カナメちゃんを丸く可愛く。
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NA)  この製鉄所が建設されたのは、大正7年のこと。

      たたら製鉄で捨てられていたカナクソを集め、外国の進んだ技術を導入し、
      木炭で再び燃やして”リサイクル”しようとしました。

      しかし、最初から失敗が続いたために”閉鎖”されました。

     やがて、昭和になり、日中戦争や、第二次世界大戦が勃発しました。

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NA)   ”鉄のモノツクリ”が盛んな広島や呉は、軍需産業の拠点になってゆきました。

      帝国製鉄加計工場は、再び改修され、
       降って沸いたような忙しさに、見舞われたのです。

カナメ) 正夫くん。 中を覗いてみましょう。 カナクソ様がお待ちかねよ。

音)     ゴーゴーゴー

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正夫)   わぁ〜〜 大きなレンガ煙突だ。

カナクソ)  おお〜正夫。 久しぶりじゃ。 よく来てくれたのう。

正夫)   カナクソ様。 すごいね。

カナクソ)  これは角炉といってな。 たたら製鉄が進化したカタチじゃ。

       上から、カナクソと木炭を”カワリバンコ”に落としながら、
       大きなフイゴで、強い風を送っておる。 (水力)

       炉の下からドロドロ流れ出ておるのが【鉄】じゃ。

正夫)   カナクソ様。 すごいね。

カナクソ) すごいといえばすごいんじゃがな。 まあ座れ。

       でもなあ。 (←悲しそう)

       捨てられたカナクソが拾われて、戦争の道具になるのは悲しいことじゃ。

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カナクソ) いいか。 これから言う事を忘れるな。

       いきなりでスマンが・・ ワシは、もう、死ぬのが近い。

       これから、激しく燃えたぎる溶鉱炉に、特攻する!

       真っ赤になってトロケ出て、ゼロ戦の防弾鉄板になるんじゃ!

       そして、突入する! それが、ワシの運命じゃ!

       正夫とカナメは、生き残って、考えてくれ。

       「モノツクリと平和」  これがワシの遺言じゃ〜 (←ゆっくりと明確に)

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正夫)   カナクソ様、そんなのイヤだ〜 行かないで〜 わ〜〜

カナクソ) サラバじゃ!

       カッコ悪いが、やっぱり死ぬのは怖いぞ〜

       ゆくぞ! うお〜〜〜 熱いぞ〜 熱いぞ〜

音)     ん〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 (←高音域〜低音域)

       ババババ〜ン  ぎゃ〜  ・・・・・ (←衝撃的に)

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NA)   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (←しばらく無音)

       やがて、昭和20年8月6日のこと、広島に原子爆弾が投下されました。
       そして、日本は戦争に負けてしまいました。

       焼け野原になった広島ですが、それからしばらくすると、
       【鉄】を使った”モノツクリ産業”が動き出して”戦後復興”が始まりました。

       カナクソ様の予言どおりになりました。

   17

NA)    正夫は、長い間、夢の中を彷徨いました。

       やがて、熱風と、騒音と、汗と、油の匂いに包まれていました。

       気持ちが落ちついてくると、
       遠くから、職場の先輩の声が聞こえてきました。

       ・・・・・・・・・・

先輩)   お〜い、正夫。 しゃあないかあ〜〜〜

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先輩)   コースを間違えるとは、ドジなやつじゃのう〜
       スキー場で、ぶっ倒れとったとこを、運んできてやったんで〜。

       仲間じゃけえのう。 (←愛情深く)

NA)    元気になった正夫は、
       温井ダムの脇の481段の階段をトボトボと登り、ゴールの様子を見ようとしました。

       ところが・・・

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アナウンス) 会場の皆さん、いよいよ、最後の選手が、ゴールします。

音)      パチパチパチ・・・

観客)    ええど〜 よう歩いたのう〜 しわいよのう〜 もちいとでゴールじゃあ〜

音)      パチパチパチ・・・

 20

NA)    帰り道の途中、日が落ちて、満点の夜空に、「オソラの星」が輝いていました。

正夫)   カナメちゃん、淋しいね。

カナメ)   正夫くん。 カナクソ様は、星になっちゃったわ。

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

NA)    その後、職場に戻った正夫は、まるで別人のように、働きはじめました。

       そして、広島のモノツクリ産業は、今も発展し続けているのです。  (12分)



Aオソラの星 〜 カナメちゃんのブルース (3拍子)

Am Dm Am Dm G7 Am
あたしは砕けた女 戦の風が 吹き始 カナクソ 様が 運ばれ もう一度 強い 鉄にな
あたしは一人残さ 川の流れに 流され オソラの 向こうに 見えまし キノコの 雲と 黒いあ

Am Dm Am Dm G7 Am
あたしを育ててくれ カナクソ様は 星にな オソラの 上から 微笑ん いつも あたしを 見ていてくれ

G7 Am G7 Am
カナメ カナメ 砕けた女 カナメ カナメ 砕けた女