工房北側 冬景色

日本列島は温暖化、亜熱帯化しておりますが
それでも、
中国山地の山里にある風炎工房では、毎年1〜2回の降雪があります。

毎年、
が降ると想い出す、夢のようで、しかし現実にあった、ある体験が甦ります。

あの日も
・・・


倉敷修行時代、徹夜の
登り窯のカマタキが終わると、冷めるまでの3日間、仕事は休みでした。
親戚から、ポンコツ車を借りて、
陶郷、丹波立杭を訪れました。

倉敷時代の師匠は、立杭で修行されており、
あちこちの窯元で見学や、お話を伺いました。

小雪舞う夕暮れ時、立杭ではチョットはずれにある、ある窯元に、お邪魔しました。
こちらの窯主は、今はもう、
他界されておりますので、A先生とさせて頂きます。


「こんばんは!私は倉敷みなと窯で、勉強させて頂いております、
林という者ですが、A先生いらっしゃいますでしょうか?
申し訳ございませんが、見学させていただけないでしょうか?」

工房の中は、
修行中のお弟子さんが6〜7名おられ、結構な大所帯でした。
お弟子さんの案内で、作業風景や窯を見せて頂きました。

夕食でもと勧められ、遠慮なく、ご馳走になりました。


同じ釜の飯を喰うという事は、こういう事か・・・

長い座卓を挟んで、
皆さんズラッと並んで 合掌 「いただきます!」

なんと、皆さん
全員の飯碗が、そろいも揃って、安物の軽い磁器の量産品・・・
また、
汁碗は、そこの窯で焼かれた民芸陶器で、重たくデッカイ、ワラ白釉・・・

何か
・・・  磁器は似合わない。

普通、窯元では売り物にならない、
2級品・キズもので、まかないそうなものですが・・・


ふと気が付くと、一番上の座に
小柄で、無精ヒゲで、
赤ら顔の、小汚い、ジジイが座って居りました。

「わしは、ここでは一番古くからおる
職人じゃ!」

は今、神戸のキャバレーで、ネーチャンの乳揉んで大酒、くろうとるわ!」

「何で
に逢いに来たんか? は、大酒呑みの、大バカタレ、じゃ!」
 
「この、わしの
お陰で飯が喰えとるんじゃ! ガハハ・・・」

随分、えらそうで、
横柄な人だなあ・・・ いやな感じのジジイ・・・

正法眼蔵が、ど〜の  道元が、こ〜の 
まるで禅問答
偉そうに、一人で喋っておりました。


他の方々は、
黙々と食事をされ、一番下のお弟子さんが、食器洗いをしておりました。


食事が終わると、
お弟子さんたちの、ロクロ練習、ライバル競争が始まりました。

オヤジもその頃は、夜12時くらいまでは練習してましたので、
何処も同じだなと思って見ていると・・・  先ほどの変なジジイが来ました。

ヘタクソじゃのう!ダメじゃのう! ガハハ・・・」

オヤジは、口づくりが上手だなと、思っていると・・・

「口づくりが
ヘタクソじゃのう!」 「修行が足らんのう!」

絶対誉めません! う〜ん・・・

「今夜は、
のところに泊まれ!」
一番下っ端のくせに女房、子供がおるんで、近くに家を借りてやってるからなあ。」

ようやく消えたと思っていると、まだ話たりないらしく、帰ってきて言いました。

「林さん!あんた、
随分悩んどるようだけど・・・いつかは晴れる、きっと晴れる!」
「いやなら、
サラリーマンすればいいんだし・・・ 自分で見つけるしかないんだよな!これが・・・」

「わしは、もう寝る。」

「お世話になりました。明日、朝早いので、そのまま
失礼します。」
A先生には、よろしくお伝え下さい。」

ようやく去ってゆきました。


工房を出れば
外は雪

「林さん!朝は
冷えて凍みるから、車のサイドブレーキは、引いたらダメヨ! ドアキーもダメヨ!」
滑り止めに、
石コロをタイヤに、挟みました。

近くの、
Bさんの家へ向かいました。小さな古い一軒家。

「ご結婚され、小さい子供さんもいて、
焼き物修行を始めるとは、大した勇気ですね!」
「子供が出来て
決心しました。 子供に嘘の自分は見せられないですから・・・」
純粋な人でした。

寝る前に、
お茶を一服
「ところで
A先生は、どんな方ですか?」
「林さん!
まだ気づかないみたいですね・・・ あの人がA先生ですよ。」


えっ何! あの
ジジイが・・・ ガ〜ン!!


コケにされたような・・・ 見透かされたような・・・ 実に複雑
天と地が、ひっくり返ったようでした。

「先生は、
オチャメで、あんなイタズラを、よくやるんですよ。」
「みんなも、慣れてて、
適当に合わせています。 別に悪気は、ないですから・・・」

倉敷に帰って
師匠報告! 早速、電話をされました。
「うちの若いのが世話になったなあ〜」

「あいつは、えらい
マジメな奴じゃなあ。 ガハハ・・・」
と、電話の向こうで、
笑い声が聞こえました。


今に想えば、
キツネにつままれたような、小雪舞う、寒い一夜の出来事。

まさに、
一期一会

確かに、あの頃、
一生、陶芸を続ける確信は、ありませんでした。

自分の中で
何かが変わったような気がします。

言葉では、教えられない
何か・・・
説明できない
何か・・・
自分で見つけるしかない何か・・・

学校では、教えてくれません!

教えるというよりも、自分の
で、で、発見できるような導き・・・

自分で
見つけた事のほうが、実になるのは確かです。

恐らく、
あの釜の飯を入れた、量産の磁器の飯碗
「自分で考えなさい。」という、
お弟子さんたちへの
A先生流メッセージだと、風炎オヤジは確信しております。

急須の達人、
A先生、天国で神様を、禅問答で騙しちゃ・・・  ダ・メ・ヨ!  ガハハ・・・

が降ると想い出す、風炎オヤジの心象風景でした。




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